L寄りBの本棚。

バイセクシャルだったけどだんだん男性に興味がなくなったレズビアン(L寄りB)がLGBTを題材にした小説や漫画について一丁前に語るブログ。

【評伝】『ゆめはるか吉屋信子』田辺聖子~3日目

さて、今日は3章目の東京漂泊を読んだ…が、この章は他の二倍くらいの長さがあるので読みきれていない。とにかく信子が四谷の寮に入ったあたりで疲れてしまった。

 

内容は、信子が栃木から上京する前後から始まっている。栃木高女を卒業した彼女はしばらく地元のお裁縫の学校に通っていたが、そんなもんが楽しいわけがなく、兄の伝手で上京することになる。下宿先は三男の忠明の下宿。

上京後は竹久夢二(別の兄が画家だった関係で会うことに!)に会ってガッカリしてみたり、中村武羅夫の紹介で生田春月・花世夫妻の家に行ったら岡本かの子が来て励まされたり、結構楽しそうである。地方出身者にとって、今も昔も東京は刺激が多くて楽しいところ。そりゃ、ちょっとやそっとのことで田舎になんか帰りたくない。

 

そうこうしているうちに、あの『花物語』の連載が始まる。初めてのファンレターなんかももらったが、恥ずかしくて返事が書けなかったそうである(ちょっと可愛い)。もっとも、『花物語』以前にも出版社へ原稿を送って採用された作品があるので、『花物語』が処女作というわけではないが…ファンレター、嬉しかっただろうね。

ちなみに、吉屋信子が女性が好きな理由について、男兄弟ばかりだったので「女性的な感じへの憧憬」があったということである。分かる。私は一人っ子だけど、オッサンばかりの職場に長いこといてみなさい、「女性的な感じへの憧憬」で胸がいっぱいになる。その辺は我々(ついに吉屋信子を仲間にしてしまった)同性愛・両性愛の者だけじゃないと思う。

 

そんな信子が『花物語』の連載中に、三歳年下の天才少女が現れ、『貧しき人々の群れ』で衝撃デビューする。中條(のちの宮本)百合子である。プロレタリア文学の大御所の名前をここで見るとは思わなかったが…とにかくこの作品を目の当たりにして、信子は「わたしゃ少女小説みたいなヘナヘナしたもんしか書けないよ」(意訳)と凹んでしまう。私なんか、焼肉と寿司くらいにジャンルが違うんだから気にしなきゃいいじゃないかと思うのだけれど、信子はそうではなかったらしい。

 

結局、同じ下宿にいた兄が東京帝大を卒業してしまい、信子は栃木に帰らなきゃいけなくなる…のだが、そう簡単に帰れるはずもなく、保母になるという口実で四谷のバプテスト女子学寮に入り、保母養成所へ通うことにするのだった。今日はここまで。

 

ここまで『ゆめはるか吉屋信子』を読んで思ったが、かなり作品の引用が多く、吉屋信子作品を読んだことのない人でもそこそこ楽しめるようになっている。だから、『花物語』を読む前に『ゆめはるか吉屋信子』を読んだほうがいいかもしれない。まあ分量がものすごいからそっちでギブアップするかもしれんが、地の文はおせいさんの文である、大変読みやすい。

あと、吉屋信子に影響を与えた人、実際に会った人として、有名作家がたくさん出てきて、ああ吉屋信子も今の日本文学を創った一人なのだなあと実感させられる。しかし、日本文学の中に初めて百合をぶっこんだのが吉屋信子である。実に素晴らしい。