L寄りBの本棚。

バイセクシャルだったけどだんだん男性に興味がなくなったレズビアン(L寄りB)がLGBTを題材にした小説や漫画について一丁前に語るブログ。

【L小】『濡れた心』多岐川恭

1958年の作品で、第4回江戸川乱歩賞を受賞している。江戸川乱歩賞というくらいなので推理小説なのだが、とにかく3人の女子高生の心理描写が圧巻。推理小説としてもL文学作品としても楽しめる、二度美味しい本作はお買い得である。古い小説なので時代背景の古さは否めない(防空壕や戦中のピストルが出てきたりする)が、今読むとかえって新鮮かも。

 

この作品は各登場人物の日記で構成されている。各人の日記の文体ですでに登場人物のキャラクターが掴めるようになっていて、多岐川の筆力を思い知らされる。が、主人公である典子の日記はかなーり乙女チックな文体になっていて、かえって「あー、これは男が書いたな」と思ってしまう。

だいたい、男性作家が女の子のフリをして文章を作ると必要以上に乙女になってしまうので、例えば太宰治の『女生徒』なんかはいくらイケメン太宰が書いたと思っても気持ち悪かった。あれは(悪い意味で)文章に酔ってしまう。

 

まあ、多岐川が書く、典子の日記はそこまで気持ち悪いもんではなく、むしろ透明感すらあるけれど、でもやっぱり「男の幻想の中の女子だよなー」という感じがする文体なのだ。現実の女子はもっとトシ(典子や寿利の同級生だが本作のキーパーソン!)くらいには散文的である。きっと多岐川もトシの日記は素で書けたんじゃなかろうか。

 

推理小説を最後からめくれるようなはずはない(若いモンは知らんだろうが、チャゲアスの有名な曲の一節である)し、あんまり書くと今から読む人にはネタバレになるから今回はそろそろ終わりにしたいが、『濡れた心』みたいな小説は純文学ではないし、とくに有名にもなっていないし、いつか消えてしまいそうで怖い。

しかし、私はこの作品は次世代に残すべきものと思っている(だからわざわざブログで取り上げた)。1981年にトシを主人公にして大場久美子でドラマ化したようだが、今の、もっと見栄えがする若手女優陣でもう1回ドラマ化してみて欲しい。当たるぞ、多分。