L寄りBの本棚。

バイセクシャルだったけどだんだん男性に興味がなくなったレズビアン(L寄りB)がLGBTを題材にした小説や漫画について一丁前に語るブログ。

【L?小】『わすれなぐさ』吉屋信子

百合文学の古典中の古典といえば吉屋信子の『花物語』である。

 

 

私も持っているのだけれど、文庫本で2冊あって、ちょっとした空き時間に読むには重い気がする。ということで、今日は薄めの文庫本1冊にまとまっている『わすれなぐさ』のほうを紹介したい。

 

一文で説明すると、牧子・陽子・一枝という、全く違ったタイプの女子学生3人が織りなすドタバタ(陽子が周囲を引っ張り回すタイプの困ったちゃんなので、どうしてもドタバタした感じになってしまう)である。最後は三人仲良くしましょうね、ということで終わりなのだけれど、読み手はそれに至るまでのドタバタを楽しめばいい。まあ、牧子と一枝の家庭環境なんかもあって、完全に明るいドタバタ喜劇とはいえないが。

クラス(今でいう「スクールカースト」!)の説明や人物についての説明など、ちょっと説明臭いのがどうかなあとは思うけれど、例えば、一枝について、「これは硬派の大将、まさに全級一の模範生です。ニックネームはロボット、すなわち人造人間ですって」などとくどくど解説してあるところは1週回って面白い。これは、「あなたたち、ちゃんと頭の中でキャラクター設定してお読みなさいよ! よくって?」という吉屋からの指示である。もう従うしかあるまい。

後は自動お任せ運転である。牧子になりきって、陽子に引っ張り回され、一枝に感心していれば良い。ある意味楽な本である。

 

さて、吉屋信子といえば、その人生もかなり興味深いもので、門馬千代という同性のパートナーと同居し、最期は門馬に看取られている。吉屋は1896年生まれ、亡くなったのは73年なので、門馬について周囲にはどのような説明をしていたのか疑問だが、吉屋が長く付き合えるパートナーを得ていたことは非常にうらやましい。吉屋の評伝については、田辺聖子の『ゆめはるか吉屋信子 秋灯机の上の幾山河』が入手しやすいと思われるので、興味のある方はどうぞ。