L寄りBの本棚。

バイセクシャルだったけどだんだん男性に興味がなくなったレズビアン(L寄りB)がLGBTを題材にした小説や漫画について一丁前に語るブログ。

【L漫】『philosophia』天野しゅにんた

ついでだからもう一つ天野作品を。

 

主人公である愛は、どこかで見たようなキャラクター設定である…そう、『私の世界を構成する塵のような何か。』の主人公留希である。恋愛とか興味なくて、勉強なんか頑張ってる女の子。舞台も大学。そして、そんな彼女が恋におちる物語…と、まあ共通点は多いのだが、全くトーンが違う作品である。

 

そもそも、主要な主人公が「愛」と「知」しかいない。したがって、『私の世界を…』のような複雑な人間関係が出てくる余地はなく、すっきりしたストーリーになっている(登場人物が多いと頭がこんがらがってしまう人にはおすすめ)。

あと、ネタバレになってしまうが「愛」と「知」は最後まで肉体関係を持たない。これは大事な相違点である(よって、当然だがエロを求める人は他の漫画を当たってください)。「愛」が「知」を求めた結果、「知」はいなくなってしまったけど、知を職業にしてしまうんである。

 

なんて書くと、タイトルも相まって、なんかひどい衒学趣味の漫画なんじゃないかと思って、読む前から辟易してしまうかもしれない。が、別に難しい哲学理論が展開されるわけではない。というか、そうしようと思えばいくらでもできたはず(例えば、「愛」と「知」は共に読書家であるが、作中で2人が読んだ本の内容は全く出てこない。うまく特定の哲学書でも出しておけば、それに引っ掛けて色々こむずかしくできたはず)だが、そういうことでは全くないのである。

一つ、作中で出てくるそれっぽい文章というと、西田幾多郎の『善の研究』である。「知と愛とは同一の精神作用である」ってアレ。登場人物の名前はここから取ったものだと推測されるが(タイトルのphilosophiaってのもそうだね)、だからといって何か西田幾多郎や『善の研究』と何か関係のあるストーリーということではなさそうだ。

 

とはいえ、この作品は、本が好きでないなら、「分からんよ」ということになりそうではある。好きな人のことをもっと知りたいという気持ちはみんな同じだろうが、好きな人に本を勧めたい・勧められたい、好きな人と同じ本を読みたい、好きな人と同じ本を読んだらその本について語り合いたい、というような気持ちが理解できるかどうか。

そんな気持ちが、「愛」を学者にまでした。「愛」の「知」への愛が、知への愛となった。そこにエロは不要どころか有害ですらある。2人が繋がるのに必要な物は、タバコとコーヒーと本であって、肉体では決して、ない。

 


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