L寄りBの本棚。

バイセクシャルだったけどだんだん男性に興味がなくなったレズビアン(L寄りB)がLGBTを題材にした小説や漫画について一丁前に語るブログ。

【評伝】『ゆめはるか吉屋信子』田辺聖子~4日目

さてさて、今日は昨日読み残した「東京漂泊」の章を読み終えた。信子がYWCAの寮に入って、屋根裏部屋を与えられる。隣室には菊池ゆきえという女子英学塾(今の津田塾)の学生が住んでいるのだな。これ、すなわち吉屋信子私小説的作品『屋根裏の二処女』の舞台裏である。

ゆきえの部屋は2人の書斎に、信子の部屋は2人の寝室にして、寮で同棲を始める2人なのだった…が、ゆきえさん、メンヘラだった(事実、今では聞かないような診断名が登場する)。ゆきえの実家が札幌で、信子の兄は池田町(地図で見ると帯広の近くだ)だということで、信子は兄を尋ねるという口実で北海道に行くことを夢見る。そして、それはゆきえが(心の)病気療養のために実家に一時帰省した後に叶った。

が、当時信子は大変忙しかったのである。まず、連載中の『花物語』は書かなきゃいけない。それに、ゆきえが勧めた、大阪朝日新聞への応募作(長編小説)も書かなくてはいけない…せっかく北海道に行ったにもかかわらず、ゆきえに構う暇はあまりなく、兄宅で執筆に励む日々だった。

そんなところに、ゆきえちゃんからガンガン手紙が届く。返事を書かなくても届く。もちろん返事の催促もあるし、札幌へ来いとも書いてある。これは大変だ。

まあ、好きな人になかなか会えないので寂しい、構って欲しいというのはよく分かる。しかし、仮に当時今みたいにスマホが普及していて、LINEみたいなアプリがあったとしたら、信子はどうなっていただろうか? 多分、毎日のように通話を迫られて小説どころでは無かっただろう。『花物語』ももっと作品数が少なかったかもしれない。大阪朝日新聞への応募もできなかったかもしれない。

いや、その前に…もっと早くにゆきえのことが嫌になっていたかもしれないな。うん、LINEがなくてよかった、よかった。

LINEがなくても、ゆきえのこのような手紙攻撃に対して、信子はおそらく(おそらく、というのは、信子の手紙が残っていなくて、おせいさんの推理によるものだからである)このような手紙を出す。

「あなたの愛って、いったい何なんですか」

 

愛って何。一度言ってみたいセリフである。とりあえず、信子の愛とゆきえの愛の質が違うのだけはよく分かる。ゆきえのは重くて激しかった。ここから2人がどうなるのかは、次の「潮みちて」に書いてあるはずなので、楽しみにしておこう。

 

なお、前の記事で青鞜社に触れたけれど、やっぱりおせいさんも青鞜社の、平塚らいてうと尾竹紅吉のスキャンダルについて書いてあった。やっぱり、百合の歴史を語る上でブルーストッキングは外せないものだった。知り合いのフェミニズムの若い(若いといってもアラフォーだが)センセ(センセと言っても学校の先生ではなく、センセと呼ばれる職業の人)に是非教えてあげたいが、うまくスルーされるのが目に見えるので教えない。ここを読んだあなたは、仮に「日本のフェミニズムレズビアンの関係について論ぜよ」という試験問題が出ても(絶対出ないけど)、慌てずに済むわけだ。よかった、よかった。