L寄りBの本棚。

バイセクシャルだったけどだんだん男性に興味がなくなったレズビアン(L寄りB)がLGBTを題材にした小説や漫画について一丁前に語るブログ。

【L小】『弱法師』中山可穂

ちょっとTwitterで他の方と中山可穂の話をしていて、その方が好きだとおっしゃるのがこの『弱法師』の中の「卒塔婆小町」だというので、早速アマゾンでポチして読みました。

 

 

実はこの『弱法師』、私初めて読んだのではなくて、2回目だと思うんです。

「だと思う」というのは、あまり記憶がなかったもので・・・ただ、デジャブ感はあるのです。何か読んでいくうちに、登場人物の名前とか、ストーリーとか、「こんなの、確かに読んだよな。」と。

しかし、「なんだ、前に読んだ本じゃないか!」なんてがっかりすることもなく、文章とストーリーに酔いながら読みました。多分ですけど、初めに読んだときにはあまり心に響かなかったんだと思います。でも今読むと、すごく響くんですね。これは私が成長したのか、老化してしまったのか。いずれにせよ心境の変化があったんでしょうね。

 

まず本のタイトルと同題の「弱法師」、これ多分最初に読んだときはただの医者の不倫と悲しい結末として脳みそで処理してしまっていました。でもね、そんな単純な話ではない。血のつながらない父子の、複雑な愛の話なのですよ。不倫・再婚相手より、主人公の鷹之は不倫・再婚相手の子どもである朔也のことを深く愛している。普通ならオンナのほうを優先して、その子どもはケムたい存在として扱いかねない余のオトコたちですが、そうではないのですね。結果として、非常に悲しい結末が待っているわけですけれど、その予兆は、ところどころに出てくる朔也と「未央」なる人物のやりとりになんとなく現れています。非常によくできたお話。

 

次の、ツイッターの方おススメの「卒塔婆小町」ですが、これは売れない小説家と元編集者・現ホームレスの老婆とのお話であります。「弱法師」にビアンは出てきませんが、ちょっとネタバレするとこの話は老婆がビアンです。だったらどうなるのか、小説家は男じゃないか、ということですが・・・彼女の語る過去がお話のメインになっていて、それがすさまじい。ビアンのお話ではあるが、彼女が出てきたり、片思いの相手がでてきたり、は一切ないのです。それでも、ある種の「愛」が語られていることには間違いない。これはちょっとすごい。ラストも壮絶。

 

最後の「浮舟」は主人公(女子高生)のおばさんがビアンです。この話はだいたい流れの予測がつくので、前二つより意外性がないストーリーになっています。おばさんの職業もナゾで、不自然な感じがする。しかし、おばさんのキャラが立っていて面白く読めるかと。

 

そんなこんなで、読書の秋、3つのストーリーが一冊にまとまった『弱法師」、結構おすすめです。中山可穂だっていうので、性描写を期待して読むと拍子抜けしますけどね。そこだけは注意してください。逆にあんまりビアンの性描写なんか読みたくないわ、という方はどうぞ。